会長ごあいさつ

ロイヤルグループは経済価値と社会価値の両立による持続的成長を実現し、すべてのステークホルダーの皆様に選ばれる会社を目指していきます。

私が試みたある実験で再認識したこと

唐突ですが、2025年1月の当社グループ全店舗および本部社員を対象としたオンラインによる新年の挨拶で、私はある実験をしました。私はいつも新年の挨拶は事前に文章を作らずにその場で思っていることをお話しするのですが、今回はその挨拶文をすべて生成AIで作成してみたのです。「グループ全店舗の従業員に響くような新年の挨拶」ということを生成AIとやり取りして出来上がった文章は、網羅的にポイントが押さえられ、とても良い文章でした。私はそれを聞いた従業員がどういう反応をするか知りたかったのです。するとそれを聞いた多くの従業員から「何か変だ」「違和感がある」という感想が寄せられたのです(文章を読み終えた後に、実はこの挨拶文は生成AIで作成したものですと種明かしをしました)。生成AIは、世の中の「公開情報」を網羅してそれを綺麗に整理して文章化する点ではとても優れていますが、そこには「公開情報」しか含まれていないため、いつも私の挨拶を聞いている従業員の共感が得られなかったのではないかと推測しています。

私たちのビジネスの本質は、お客様や従業員の中にある日々変化する喜怒哀楽の気持ちといった「公開されていない情報」に寄り添うことです。いかに生成AIが進化しても、そこに寄り添うにはまだ相当時間がかかるのです。そういった「公開されていない情報」に寄り添うホスピタリティが私たちの本源的な強みであり、生成AI には当分代替されない領域だと考えています。そこを私たちのビジネスの本質として追求しなければならないことをこの試みを通じて私も含め、従業員も再認識できたのではないでしょうか。

デジタル化は競争優位性を創る手段のひとつ

ただし私たちのビジネスにデジタル化が必要ないのではなく、私たちにもデジタル化は必要です。ここで重要なのは、デジタル化は「競争優位性を創る手段のひとつ」であるかどうかということです。

デジタル化によって競争優位性を創るためには2つの考え方が必要です。1つ目は、事業や業態の価値創造プロセスの中身を考えることです。外食・ホスピタリティ産業は、アートとサイエンスが融合した産業です。これは二元論ではなく、老舗の人気店やミシュランの星付きのお店などはアート性が強く、一方でファストフード店などはどちらかといえばサイエンス性が強い業態といえると思います。アートの領域の価値創造プロセスは人の想像性や独創性です。サイエンスはロジカルなシステムがその価値創造プロセスの大部分を担っているといえるかもしれません。その前提で考えると、アートの領域では人の力で価値を創造しているため、デジタルはそれを支える形で活用することが合理的です。一方サイエンスの領域では、その事業プロセス自体をデジタル化していく必要があり、デジタルの活用法は、価値創造プロセスの中身によって違うと考えます。例えばロイヤルホストでは、人の力を発揮して価値を創造しているため、発注プロセスやレジ締め作業などをデジタル化し、お客様に対する接客の部分ではしっかりと人がホスピタリティを発揮できる環境を作ることが重要なのです。

2つ目は、時間軸を考えることです。例えば今は人手不足が深刻です。だから今はデジタルを活用した方が競争優位を創れるのです。しかし今後デジタルが誰もが使う普遍的なものになるとそれはもう競争優位にはならなくなります。そうなると最後に競争優位として残るのはやはり人の力になるのです。だから今、人的資本投資を強化しなければならないのです。このようにデジタルの活用法は、事業や業態の価値創造プロセス、時間軸によって異なると考えます。その中で私たちがデジタルをどのように組み込んでいくか、デジタルを活用しながら人が生み出す価値は何なのかをしっかりと考えなければいけないのです。

コロナ禍を乗り越えることで筋肉質な会社に

2020年から始まったコロナ禍により当社グループの業績も大きな打撃を受けましたが、当社グループはコロナ禍前の2018年、2019年に増収減益が2期続く状況でした。なぜ売上が上がっても利益が上がらなくなったのか、これはそれ以前に連続で増収増益が続いたことによる油断や様々なコストに対する意識が少し弱まっていたことが原因のひとつだったと思っています。それをコロナ禍でまた筋肉質な会社になるために様々な施策を打ち、結果としてコロナ禍後には、売上の回復だけではなくしっかりと利益も生み出せるようになりました。コロナ禍前からの課題がコロナ禍という本当に苦しい危機を乗り越えることで会社が大きく筋肉質に変わることができたのです。

また当社グループは、従前よりポートフォリオ経営の進化を推進してきました。当社グループの事業環境においては、円安が進むと、外食事業は原材料の高騰などで大きな打撃を受けますが、ホテルや空港はインバウンド需要が増えます。外部環境の変化に対して、多様な事業があることで、それらを組み合わせて対応できるのが当社グループの強みです。事業環境には必ず波があり、その波をいかに多角的なポートフォリオによって打ち消し合うかが重要で、今はそれがうまく機能していると思います。一方、コロナ禍ですべての事業がサスペンドされた状態は常に頭に入れながら、次の事業戦略をいかに組み立てていくかは私たちに問われているゴールのない継続的な課題だと思っています。

そしてより長期的に日本社会の変化を見ると、やはり人口減少は避けられません。少子高齢化が急速に進んでいく中で、国内だけでは十分な成長を得ることはできません。新中期経営計画においても海外事業の強化は改めて取り組んでいくテーマになります。ただし国内ではもう成長ができないから海外事業を強化するのではなく、国内でもしっかりと成長していきます。ただステークホルダーの期待に十分に応える成長力は国内だけでは難しいため、海外も一つの成長のエンジンとして創っていくことが重要なポイントです。コロナ禍においては、とにかく「守る」ことが最優先でしたが、コロナ禍も終わり、国内でも海外でも「攻め」に転じることが新中期経営計画の重要な要素になり、海外事業への投資を活性化させ、今まで以上に踏み込んだチャレンジが必要になります。

「変わらざるもの」と「変わりゆくもの」に加えて重要なのは「変わり方」

新たに策定した経営ビジョン2035でも掲げている通り、当社グループは「変わらざるもの」と「変わりゆくもの」を見極めて事業を行っています。そのうえで重要になるのが「変わり方」です。お客様や従業員といったステークホルダーがいる中では、一足飛びではなく、一定の時間軸を持って変わらなければいけません。製造業におけるデジタル化は、人とテクノロジーが代替性「or」の関係です。製造ラインを全部機械に変えればそのラインに人は必要なくなります。人がやるか機械がやるかどちらかなのです。一方サービス産業におけるデジタル化は代替性ではなく補完性「with」の意味合いが強いと考えます。その場合、お客様にも従業員にも慣れてもらわなければいけないため、変化に一定の時間が必要だと考えます。代替性「or」は変化の時間軸が一瞬で、補完性「with」は変化に一定の時間がかかるのです。

第三次産業革命では、製造業のオートメーション化という人を機械に置き換える代替性が中心でした。今起こっているのは代替性ではなく、テクノロジーと人の能力を掛け合わせる補完性・拡張性「with」なのだと考えます。これは一定の時間軸をかけた「変わり方」が重要で、どんどん機械を入れて人を減らすというやり方が必ずしも正しいとは思っていません。当社グループとしては、この補完性・拡張性を活用して、いかに人が現場で価値を生み出す環境を作っていけるかが重要なのです。環境さえ整えれば、従業員は力を発揮してくれるというのが当社グループの強みなのです。

経済価値と社会価値をいかにトレードオンしていくか

当社グループは「ロイヤル経営基本理念」を礎に「地域・社会に根付いた企業となり、すべてのステークホルダーから共感・支持を得られる企業」を目指すサステナビリティ経営を推進しています。社会課題の解決に向けては、網羅的に取り組むことも必要ですが、本業に近い部分から進めていくことが重要です。その方が持続性もあり、ステークホルダーの納得感も得られると思っています。

例えば、当社グループにおいては、食品ロスの削減がその一例です。産官学アライアンスである「mottECO普及コンソーシアム」への参加や、地域単位でのサーキュラーエコノミーとして、食品残渣を使用した堆肥によって野菜を作り、それを当社グループの工場で食材として使用するといった取り組みを進めており、こういった地域単位のエコシステムをさらに拡大していくことが当社グループらしい取り組みになっていくと思います。

またこれからの時代は経済価値と社会価値をいかにトレードオンしていくかがキーワードになります。そして社会課題の解決に向けては、1社でできることに限界があります。経済価値においては企業間の連携が生まれにくい一方で、社会価値の追求においては企業を連携させます。共通に抱える社会課題の解決に対しては企業同士が結び付きやすいのです。利益さえ上げていれば立派な会社とはならず、すべてのステークホルダーから選ばれる会社になるためには、経済価値と社会価値を両立させていかなければいけないのです。寡占産業においては、大手企業同士の連携が進んでいますが、外食・ホスピタリティ産業のような裾野の広い産業ではそれができにくいので、まずは今後皆でそれをやっていく仕組みを作っていくことが重要だと思っています。

すべてのステークホルダーに選ばれる企業となるために

私は企業経営において最も重要なことはゴーイング・コンサーンだと考えます。ゴーイング・コンサーンのリスクとして、人手不足、原材料の調達といった「供給制約」が顕在化しつつあります。この供給制約を解決していくには、デジタルの活用はもとより、顧客や株主だけではなく、働く人、お取引様からも選ばれる会社となることが重要です。そして選ばれる会社となるためには、経済価値と社会価値をトレードオンにしていく取り組みが今後求められていきます。当社グループは経済価値と社会価値を両立した成長を実現し、すべてのステークホルダーの皆様に対してフェアな分配によって選ばれる会社を目指していきます。

代表取締役会長 菊地 唯夫

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